【出典:全訳読解古語M】
あから-さま
[形動ナリ]
[活用]なら・なり(に)・なり・なる・なれ・なれ
(1)急に。突然に。
[例]「和泉『昔恋しければ、見奉らん。渡したまへ』と、――・にありければ」〈栄花・ころものたま〉
[訳]和泉式部イズミシキブが「昔の人(=亡き娘の小式部内侍ナイシ)が恋しいので(娘の遺児に)お目にかかりたい。こちらによこしてください」と、突然に手紙で言ってよこしたので。
(2)ちょっと。ほんのしばらく。かりに。
[例]「をかしげなる稚児チゴの、――・に抱イダきて遊ばし愛ウツクしむほどに、かいつきて寝たる、いとらうたし」〈枕・うつくしきもの〉
[訳]かわいい感じの幼児が、ちょっと抱いて遊ばせかわいがっているうちに、しがみついて寝たのは、とてもかわいい。
(3)(「あからさまにも」の形で下に打消の語を伴って)ほんの少しも。まったく。
[例]「え見たてまつり棄てず、家に――・にもえ出でざりけり」〈源氏・須磨〉
[訳](お供の者は源氏を)お見捨て申し上げることができず、京の自分の家にも、ほんの少しも帰ることができないでいるのであった。
(4)(近世以降)はっきりしている。明白だ。
[例]「山蟻ヤマアリの――・なり白牡丹ハクボタン」〈蕪村・新花摘〉
[訳]山蟻がはっきりと見えるよ。白牡丹のまっ白い花びらの上に。
【関連語】
類義語「かりそめ」が、軽い気持ち・本格的ではない状態という心理的な意を表す傾向があるのに対して、「あからさま」は、一時的な状態・仮のことという時間的な意を表す傾向がある。なお、古辞書では「白地」に「かりそめ」と「あからさま」の訓を併記する。