【出典:全訳読解古語M】
ゆめ【夢】
[名](「寝目イメ」の変化した形。上代は「いめ」)
(1)眠っている間に見る夢。
[例]「思ひつつ寝ヌればや人の見えつらむ――と知りせば覚サめざらましを」〈古今・恋2・552〉
[訳]いちずに思い慕いながら寝たので、あの人が夢にあらわれたのだろうか。もし夢とわかっていたなら、目が覚めないままでいたものを。
(2)夢のように思われること。はかないこと。
[例]「忘れては――かとぞ思ふ思ひきや雪踏みわけて君を見むとは」〈古今・雑下・970〉
[訳]あなた様がこうしていらっしゃるのをつい忘れては、まるで夢でも見ているのではないかと思います。ご出家なさる以前には一度でも思ったことがあったでしょうか、深い雪を踏みわけてあなた様にお目にかかることになろうとは。
(3)迷い。煩悩。
[例]「むつごとを語りあはせむ人もがな憂き世の――もなかば覚サむやと」〈源氏・明石〉
[訳]閨ネヤの語らいの相手がほしい、このつらい世の中の数々の悩みもそれで半ばは慰められるのではと(思って)。
《参考》
古代人にとっての夢は、「うつつ(=現実)」とかけ離れたものではなく、あくまで一つの現実、直接体験として信じられた。とくに、霊夢や予言の夢は神や仏が見せるものであり、異郷からの信号として重要視された。時には皇位継承すら、夢の占いによって定めることがあった。